音楽評論家 寺西基之
牛田智大は早くから神童として知られた。筆者も彼が13歳の時にその演奏を初めて聴き、少年の指から繰り出される清新な音楽に感嘆したことをよく覚えている。特に、神童によくありがちなただ感性に任せて弾くのではなく、表現に対する知的な思慮を感じさせたところに感心した。神童にはやがて壁が立ちはだかる。感性だけに頼る神童はそこでただの人になってしまうが、思慮深い彼は間違いなく大成するだろうという将来への期待を抱いたものだった。
果たして最近の彼は、かつての神童から成熟した芸術家へと変貌を遂げている。奇を衒わない正攻法の姿勢は以前から変わらず、そこに作品に対する熟慮に裏打ちされた表現の彫りが加わり、深い味わいが滲み出るような音楽を奏でるようになった。ここ何年か、表現上の様々な模索を行なっている様子を窺わせることもあった彼だが、そうしたたゆまぬ努力が今大きく花開いているようだ。シューマンとブラームスの大作ソナタをメインに置く今回の重厚なプログラムによる演奏会は、そうした現在の彼の進境ぶりを示すものとなるだろう。
横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズ67
牛田智大ピアノ・リサイタル
2023年 3月21日 (火・祝) 15:00開演 (14:00開場)
よこすか芸術劇場
S席:4,500円 A席:3,500円 B席:2,500円 ペア券(S席):8,500円