11月3日「文化の日」に行われた審査委員たちによる貴重な演奏&トークイベント。その模様を皆さまにお届けします。
第1部は審査委員の演奏&トーク。各先生 15 分の制限時間!?の中、コンクールで弾いたことのある曲の演奏とその当時のエピソードをお話しいただきました。
演奏:ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第7番ニ長調 第1楽章」
本コンクールの第2次予選の課題曲のひとつでもありますが、私も22 歳ぐらいの頃ジュネーヴ国際音楽コンクールの第 2 次予選で弾きました。アメリカからザルツブルグに留学先を移して(伊藤恵先生も教えを受けた)ライグラフ氏というすばらしい先生のもと取り組んだのですが(文化圏が変わり先生の指導方針もがらっと変わったことで)“怒られた”という記憶しかない。今なら先生の言わんとしていたこともわかりますがその時は無我夢中でした。その後何回も弾いているわけではなく、今日は勉強していた当時の楽譜も持ってきて振り返りました。
演奏:ショパン「 幻想ポロネーズ」
ちょうど先月ワルシャワでショパン国際ピアノコンクールが行われ日本人の入賞が話題になったが、)私が今から 36 年前に参加した際、第 2 次予選で弾いた曲です。結果は 2 次予選より先に進めなかったのですが、せっかくなのでそのあと他のコンテスタントの演奏をたくさん聴き、色々な意味で勉強になりました。当時はヨーロッパでの留学生活も日が浅く、 2 階席の後ろの方に座って聴きながら「これからが本当の音楽の勉強なんだ」と強く思いました。
演奏:シューマン「 アベッグ変奏曲」
この曲は20歳のとき生まれて初めて受けたコンクールで一番最初に弾いた曲(エピナール国際ピアノコンクール/フランス)。本選では協奏曲(ベートーヴェンの 3 番)を弾いたのですがそれも初めてのオーケストラとの共演で、何もかもが初めてづくしのコンクールでした。そのころはコンクール自体の数も今よりずっと少なく、ある意味のどかな時代でした。今は Youtube で配信されたりするので、それを受ける側の気持ちを考えると大変だなと思う一方で、何十万という人たちがご自宅にいながら素晴らしい若者たちの才能を聴けることはすばらしいです。
コンクールの思い出(聴き手:梅津時比古)
ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールは課題曲の数が多いことで有名ですが、私はむしろたくさんの曲が勉強できる良い機会だと思って参加しました。コンクールで大事なのはその時の自分をめいっぱい掘り下げる事です。(梅津氏より自身の音色の秘訣について聞かれて)歌から影響を受けていることはあると思います。姉ふたりが声楽をやっていてよく伴奏していました。先日見たYoutube の動画でルビンシュタインが同様のことを言っていて“我が意を得たり”と 感じました。
第2部は審査委員が集結し、コンクールを受ける側、そして審査する側の両方の立場から、コンクールの活用法について様々な知見がもたらされました。ここでは 45 分間の熱い座談会の中で飛び出した名言を抜粋してご紹介します。
「様々なコンクールを受けたが、雄大な敷地を持つホストファミリーの家に滞在し、夜中まで練習してなんとか間に合わせたのも良い思い出。(上野)」
「コンクールというのはコインの表裏のようなもの。ひとくちにコンクールと言っても様々な特徴をそれぞれ持っているので、それを活用するつもりでポジティブに取り組んでほしい 。(上野)」
「コンクールは本当に準備が大変で、最後に受けたミュンヘン国際音楽コンクールでもプレッシャーのあまり体調を崩した。すると恩師ライグラフ先生から「あなたの体調が悪いこと、このコンクール、そしてこの美しい音楽は、なんの関係もない。この音楽を奏でることができる喜びをもって、感謝して弾きなさい」 と言われ目からうろこ。(日本人初の優勝に繋がった。)(伊藤)」
「本コンクールでも審査後にコンテスタントとお話しする機会があるのはすばらしい。色んな意見を聞くということは、コンクールにおいて、実は賞を取るよりも大切かもしれない。(伊藤)」
「第1次予選の曲は「エチュード」と名前がついているが、3分の中に2時間分の映画の内容が詰まったようなすばらしい曲がたくさんある。(東)」
「同じコンクールを受けた者たちは“同じ釜の飯を食う同志”のような存在。コンクールに参加する上で周りの人との交流が自分にとってかけがえのないものになる。(東)」
「コンクールでは色々な人との出会いがあり、自分の演奏に対する反応を聞くことで視野が広がる。自分が長所と思っていなかったところをほめてもらえることもある。(野島)」
「第2次予選のベートーヴェンのピアノ・ソナタは、選択肢が幅広い。ベートーヴェンのピアノ・ソナタの世界は非常に広大でそれぞれに個性があるため、自分に合った曲を選ぶことができる。全楽章演奏としているのは、どのソナタでも緩徐楽章と呼ばれる部分に革命的な要素があり、弾くのが大変に難しいため。(野島)」
「若いときにしかできない表現や弾き方がある。円熟とも違って、その人の内面が出た音(で非常に魅力を感じる)。聴衆の皆さんにはその個性の違いを楽しんでもらいたい。(野島)」
「第1次予選から聴いていると、自分の個人的な感性(音楽の好み)とぴったり合う人が必ずいる。必ずしもそういう人が最終まで残らないこともあるので、聴衆の皆さんにはぜひ最初から聞いてほしいし、コンテスタントにも同じように「聴いてくださる方がいる」と言って励ましている。(梅津)」
このイベントは、出場者エントリー受付初日に開催されました。
2時間を超える盛りだくさんな内容で、コンクールを受ける側、その演奏を聴く側の方、その両方にお楽しみいただけたことと思います。たくさんの方にご来場いただき、ありがとうございました。
なお、第2部の座談会の模様は動画でもご覧いただけます。
動画《“コンクール”との向き合い方 第9回野島 稔・よこすかピアノコンクール プレ・イベントより
2022年(令和4年)5月16日(月)~5月22日(日)
5月16日(月)~18日(水) 第1次予選
5月19日(木)~20日(金) 第2次予選
5月22日(日) 本選/表彰式
※予選、本選、表彰式は無料で一般公開します。
主催 公益財団法人 横須賀芸術文化財団
共催 横須賀市
協賛 京浜急行電鉄株式会社
後援 神奈川県/神奈川県教育委員会/横須賀市教育委員会/横須賀商工会議所
協力 スタインウェイ・ジャパン株式会社/有限会社ピアノ・トレボ社/株式会社オクターヴ/奈良文化センター音楽教室