YOKOSUKA ARTS THEATRE

世界を驚嘆させたベトナム発21世紀型サーカス”AO SHOW”の魅力とは?

 ベトナム演劇の調査研究のため、2014年に初めてベトナムを訪れた。そこで私の目を釘付けにしたのが『A O SHOW(アー・オー・ショー)』だった。以来、私はすっかりベトナムに魅せられ、ベトナムに住みついてしまった。

 名前の由来でもある「アー・オー」とは、ベトナム語の「村(ラァン)」と「都会(フォー)」という単語の母音を強調したもので、なおかつ、驚きのときに口から発する「アアッ!」「オオッ!」という感嘆の声をもじって名付けられたという。ベトナム人もダジャレが好きである。

『アー・オー・ショー(オリジナル版)』は、2013年の初演以来、4年間で10万人以上の観客動員数を記録している。世界最大の旅行サイト「トリップアドバイザー」では、「ホーチミン市のおすすめナンバーワン」の座を堅持している。国内ではハノイとホーチミン市の両オペラハウスで定期的な上演が行なわれ、国外ではドイツやフランスなどヨーロッパを中心とした10数か国で300回以上の上演実績を持つ。

オリジナル版の演出を担当しているのは、ホーチミン市で生まれ、ドイツで育ち、かのシルク・ドゥ・ソレイユに出演した経験のあるトゥアン・レー氏である。緻密な場面の構成とその演出はずば抜けている。パフォーマーは全員ベトナム人で、身体能力の高い20~30代前半の男女である。男性たちは、とにかく強くて優しく、そして女性たちは、華奢で美しい。

AO SHOW より

 

ルーン・プロダクションには現在、4つの作品が存在する。

わたしは、『アー・オー・ショー(オリジナル版)』、『ザ・ミスト』『マイ・ヴィレッジ』の3作品を観劇した。趣向はそれぞれ異なるが、いずれも序盤の数分間で度肝を抜かれる

農村部に欠かせない大小の竹ザルや竹竿が小道具として使用され、それを巧みに操るパフォーマーたちのアクロバティックな動きは見事としか言うほかない。さらに、群集による洗練されたコンテンポラリーダンスと演劇を組み合わせた高度な身体表現は、ベトナムにおける農村と都会の暮らしを情緒的かつコミカルに描きだす。大きな竹ザルが空中ブランコになって宙を舞い、また時としてカエルやフラミンゴといった滑稽な生き物に変わるとき、観客席からドッと大歓声が沸き起こる。

『アー・オー・ショー』とともに、2014年に創作された『ザ・ミスト』も私の好みである。

「米(こめ)」をキーワードに、ベトナム南部の穏やかな農村の日常を、素朴な動きで描き出す。急ピッチで進む経済発展の中で、変わることのないベトナムの魅力が舞台上にちりばめられていた。木陰に座って涼む農夫の姿や、月明りの下で愛を語り合う恋人などが、現代的なダンスで情緒豊かに表現される。恋人役を演じた2人のパフォーマーの感情の表出力は、飾り気がなくて好感が持てる。

様々な場面で登場する「竹」はこの作品の魂であり、「米」は生きる命である。「竹」の強さと「米」の偉大さに改めて魅了され、自然の美しさを堪能した。

加えて、ベトナム南部の、独自の伝統的な楽器による生演奏は、優雅で独創的な雰囲気を醸し出す。どの作品も最初から最後まで、気の抜けない緊張感が漂っていた。

抒情で舞台を満たす構成は、このカンパニーの特徴といえよう。

私は、昭和30年代の幼い頃に見た田舎の風景を思い出し、不思議な錯覚を覚えた。生きることの希望と絶望が、表現の問題として突きつけられている気がした。

フィナーレでは、パフォーマーたちは観客席の真ん中の通路を出口に向かって勢いよく走り抜けていく。そしてロビーの階段に座ってポーズを取りながら観客が出てくるのを笑顔で迎える。記念撮影を望む観客たちとのささやかな交流である。サービスという面からもよく考え抜かれた構成になっている。

ルーン・プロダクションは、ベトナムで観劇した公演のなかでも、とりわけ強烈な印象を残した。ベトナムの舞台芸術の底力、アートの素晴らしさを噛みしめている。

 

宗重博之(むねしげ・ひろゆき) 
劇団黒テント プロデューサー/ディレクター。

1955年生。1978年に「黒色テント68/71」に参加。東西ドイツ留学や、セルビア在外研修などを通じ、ヨーロッパ大陸における演劇交流を行う。近年ではフィリピン、タイ、ベトナムなど東南アジア各国の民衆演劇団体との交流を積極的に重ね、新たな「アジアの演劇運動」を画策している。国際演劇協会日本センター会員。壁なき演劇センター理事。

 

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