——–今回の公演でも、加藤さんが全編曲を担当されておりますが、どのような経緯で引き受けられたのでしょうか。
藤木)
もともと遡ると、東京文化会館に企画原案をオファーされて2020年に初演した「400歳のカストラート」が2018年ごろ企画として始まったのですが、その際に加藤昌則さんに音楽監督をお願いしました。楽曲をピアノクインテット用にアレンジして頂いたことや、新作を書いて下さり、それがすごくうまくいったので、その編成でCDをリリースしました。その流れもあり、尚且つ編曲者をそろえた方が一貫性もあるという事でお願いしました。コンサートごとに新しい曲の編曲をお願いするので、レパートリーは増えていく一方です。
——–お二人が音楽を創っていくうえで、大切にしていることはありますか
藤木)
大切にしていることは、楽しくやることです。すばらしい演奏家はたくさんいますけど、やっぱり一緒に音楽、お仕事をしていて楽しいかどうかというのは重要です。その点加藤さんとのお仕事はほとんど飲み屋で決まりますし、酔っぱらって決まった話が大半です(笑)。先の音楽監督をお願いするくだりも、横浜の居酒屋でお願いした話です。
加藤)
飲みニケーションですね(一同爆笑)。
藤木さんと共通していることもありますが、自分の根本は書き手だと思っています。決して楽をするといった意味合いではなく、演奏者自身が楽しめること、技術的に難しい要求だったとしても、やる気、心意気みたいなものを込めて、客席にいる方になにかしらのエネルギーを伝えることが大切だと思います。自分が今まで会場で聴いてきたときのいい演奏というのは、ある種の緊張感が高度に高まっていて、その興奮が客席に届くときに、演奏にしても、作品にしても自分の心を動かしたというのがあります。そういう経験が初めてこういう演奏会に来る方や、クラッシックをあまり聞きなれてない方にも伝わるように、言葉にできない興奮みたいなものを持ち帰ってもらう為にはどうしたらよいかという事を書き手としても、演奏家としても考えています。
藤木)
この書き手には割とよい意味での癖がありまして、「あ、ここ加藤!」と思うポイントがあって、そういうところには楽譜にまるをつけて「KATO」って書くようにしています。
——–最後になりますが、横須賀公演の注目ポイントなどありましたら教えて下さい
藤木)
とにかく一人一人演奏者の個性を生かした編曲なのです。1stヴァイオリンとか2ndヴァイオリンとかではなく、どっちも「ヴァイオリン」みたいな。僕の考え方もそうですけど、それぞれの妙技が重なった時の緊張感とか興奮といったものを楽しんでいただけるとうれしいです。
加藤)
演奏者は公演ごとで変わりますが、初演の際は誰が演奏するか知った上で編曲を始めています。いいところなども全部知っているし、自分が操れるといったことは書き手冥利に尽きます。それぞれ奏者のファンの方が聴きに来ても、その持ち味を生かしたところが入っているので、ぜひ注目して聞いていただきたいです。また、ピアノ5重奏という編成は、室内楽の中でも最も小さいオーケストラのようなサウンドが特徴です。「ちっちゃいんだけど大きなオーケストラのような音の広がりを持つサウンド」を体験できる演奏会だと思います。
全体の流れでも、ただ単に曲が配列されているだけじゃなくて、ストーリーがあり、まるでアルバムCDを一から聞いたような。そういう時間を楽しめる公演というのは、なかなかないと思うので、万事お繰り合わせの上、是非来ていただきたいです。きっと記憶に残る演奏会になるのではないかなと思います。
藤木)
——–ご自分の作品の良いところはどこですか?
加藤)
何でしょうね。いつも僕の曲が演奏される時にはどんな編成であろうが、自分が弾いていないときには「いやー、いい曲ですね」っていうようにしています(一同爆笑)。でも、そういう自分が書いた音が、一流の奏者によって楽譜では表現できないことが音になった時は、たまらないものです。自分の作品の最上級の演奏が聴けるわけで、お客様にも是非聞いて頂きたいなと思います。
藤木大地&みなとみらいクインテット
2023年 8月6日 (日) 14:00開演 (13:15開場)
よこすか芸術劇場
――――番外編―――――(インタビュー後のちょこっと話)
藤木)「レモン哀歌」がすごい評判がいいですよ!
加藤)ねえ!光太郎ちゃん※
藤木)あれ歌うの大変なんですよ。
加藤)
僕が歌を書くときにすごく大事にしていることがあって、実は子どもにたくさん聞いてほしいなって書いています。大人になった時に「詩」を携えていることってすごい財産だと思うし、うれしいことだけじゃなくて、悲しい・つらいときに救ってくれる言葉はたくさんあります。高村光太郎の「レモン哀歌」というのは、自分の愛する人が先になくなってしまうという悲しい話ですけど、人生において「死」という事柄は絶対に切り離せないものだし、あの詩の中には「悲しみ」だけじゃなくて、生きていくことの素晴らしさっていうのも、記されていると思います。自分の曲がそれをどのくらい具現化できているかは分かりませんが、自分がその「詩」を携えて生きていく中で得た感動を、そのまま音にして出したものなので、それを評価していただいていることは、すごくうれしいことでもありますし、幸せなことだと思っています。
藤木)作曲家みたいじゃない(笑)
加藤)ねぇ~~!!
※高村光太郎(1883-1956)。日本の詩人・彫刻家。レモン哀歌を含む『智恵子抄』を出版。
ここで「レモン哀歌」の話が出てきたという事は???!!
さて、次回のインタビューは横須賀芸術劇場にもゆかりのあるピアニスト!こうご期待!