東京オリンピックが行われるはずだった2020年夏。スポーツの祭典であると同時に文化の祭典でもあるオリンピックは、世界中の人々や様々な文化に出会える場です。
横須賀芸術劇場では、数年前からこれにあわせて東西の文化交流や融合をテーマとした記念的な公演を計画してきました。残念ながらコロナ禍によりオリンピックは延期となりましたが、舞台芸術の活動を止めない為にもこの10月、日本独自の舞台芸術である“能”と西洋の舞台総合芸術である“オペラ”の連続上演をお贈りいたします。
“東洋”と”西洋“、”仏教”と“キリスト教” “15世紀の能”と”20世紀のオペラ“などの対比だけでなく、国や文化を超えた共通性や普遍性などを体感していただける特別な機会・・・。
その内容の一部をここでご紹介しましょう。
作品は、観世十郎元雅による悲劇の名作「隅田川」と、イギリスの大作曲家ベンジャミン・ブリテンが「隅田川」からインスピレーションを得て作曲したオペラ「カーリュー・リヴァー」。
今回「隅田川」を演出・出演するのは、横須賀芸術劇場で2005年から「よこすか能」をプロデュースしている観世流シテ方の観世喜正氏。「カーリュー・リヴァー」を演出するのは、開館15周年記念オペラや2002年から「オペラ宅配便シリーズ」の企画・演出をしている声楽家・演出家の彌勒忠史氏。横須賀芸術劇場とゆかりの深いこの二人がタッグを組み、この連続上演へとつながりました。
ろうそくで照らし出された幻想的な能舞台で能を上演した後、同じ舞台でオペラを上演します。そして、二つの作品をどのように橋渡ししていくのか、横須賀芸術劇場を知り尽くしている両氏ならではのアイデアが結実した舞台にご期待ください。
平安時代の「伊勢物語・東下り」がモチーフのこの作品。人さらいに連れていかれた息子・梅若丸を、母親が狂乱となりながら探し歩くというもの。「狂女物」と呼ばれる形式の能。同じく「狂女物」である観阿弥作の「百萬」、世阿弥作の「桜川」、作者不詳ながら秋の名作とされる「三井寺」など母親が子供を探す作品は、必ず最後に再会を果たし、ハッピーエンドとなりますが、この「隅田川」だけは、わが子の死を聞いて嘆き悲しむ母親の前に、子の幽霊が現れるのみで、触れ合うことは叶わない、真の悲劇として描かれています。
ベンジャミン・ブリテンが1956年に東京で能「隅田川」を観劇し強い印象を受け、15世紀の「隅田川」の素朴な物語を、宗教劇に翻案し、1964年(東京オリンピックが開催された年)にイギリスで初演しました。設定は中世の教会、カーリュー・リヴァーで起こった神の奇蹟ついて劇が進行します。人買いにさらわれた子どもを探し、狂女となった母親が、長旅の末に子どもの死を知り、巡り合う望みが絶たれた事を嘆き悲しみますが、そこに子どもの亡霊が現れ母の魂を救済する。教会で修道士が演じるという設定から、男性だけで演じられるなど、能の形式を厳密に再現した独特で稀有な作品です。
② 音楽評論家・加藤浩子による寄稿
「川」のほとり 〜満を持してよこすかの舞台に登場する二つの救済の物語へ~
能「隅田川」×ブリテン オペラ「カーリュー・リヴァー」連続上演 ”幻”
2020年 10月18日 (日) 14:00開演 (13:00開場)
よこすか芸術劇場
*この公演は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、前後左右1席ずつ開けて販売いたします。
感染状況が改善された場合には、前後左右の空席を追加販売する可能性があります。