YOKOSUKA ARTS THEATRE

【NHK交響楽団 横須賀公演】音楽ライター飯尾洋一氏による聴きどころ解説

2年ぶりに横須賀公演を行うNHK交響楽団
今回はファリャ、ラロ、ラヴェルらのスペイン特集。“情熱の国スペイン”の魅力がたっぷり詰まった珠玉の名曲をお届けします。
いよいよ今週末に迫った一般発売日(1月12日(土))に向けて、
音楽ライター・飯尾洋一氏がそれぞれの聴きどころを解説いたします!


横須賀にスペインからの熱い風が吹く。日本を代表するオーケストラ、NHK交響楽団がスペインの名指揮者ジュセップ・ポンスとともによこすか芸術劇場に登場する。プログラムはスペインを題材とした名曲集。ファリャの歌劇「はかない人生」から間奏曲とスペイン舞曲、ラロのスペイン交響曲、ファリャのバレエ組曲「三角帽子」第2部、そしてラヴェルのボレロ。カラフルで華やか、そして楽しい作品がそろった。

ファリャはスペインのカディスに生まれ、20世紀前半に活躍した作曲家。アンダルシアの伝統音楽を、普遍的なスタイルの音楽へと昇華しているのが彼の特徴だ。私たち日本人にとって、もっとも「スペインらしい」と感じられるのがファリャの作品かもしれない。歌劇「はかない人生」で描かれるのは、恋人が自分を裏切って金持ちの娘と結婚すると知ったロマ(ジプシー)の娘が、決死の覚悟で結婚式に乗り込むという物語。修羅場を予感させる間奏曲と、宴でフラメンコを踊る場面で用いられるスペイン舞曲は、しばしば抜粋で演奏される。カスタネットが刻むリズムがスペイン情緒を醸し出す。

一方、バレエ組曲「三角帽子」はアンダルシアの民話にもとづく小説が題材となっており、代官が若い粉屋の妻に横恋慕したあげくに懲らしめられるという物語が描かれる。この組曲には活発なダンスの場面がふんだんに収められており、とりわけ結尾に置かれた「終幕の踊り」では、代官を退散させて喜びを爆発させる村人たちの様子が生き生きと表現される。クライマックスは鮮烈だ。ちなみに三角帽子とは、子供のパーティなどで見かける円錐状のとんがり帽子ではなく、権威のシンボルとなる三つ角の立派な帽子を指している。悪代官を懲らしめてすっきり!という日本の時代劇とも相通じる快感を、音楽で味わうことができるのだ。

ラロはフランス生まれの作曲家だが、スペインの血をひいている。代表作「スペイン交響曲」はその曲名にふさわしく、スペイン風のリズムやメロディがふんだんに取り入れられている。この曲、名前は「交響曲」なのだが、実態はヴァイオリンのソロとオーケストラのために書かれた「協奏曲」である。作曲者のラロ自身も名ヴァイオリニストだったといわれるが、初演者はサラサーテ。作曲家としても知られるスペインの名ヴァイオリニストである。今回は屈指の若手奏者、南紫音がソロを務める。ハノーファー国際ヴァイオリン・コンクール第2位を始めとするコンクール歴を誇る気鋭である。

ラヴェルもまたスペインの血を引くフランス人作曲家である。バスク系の母親への深い愛情ゆえか、ラヴェルはたびたびスペインにちなんだ作品を書いている。スペイン舞曲のリズムにもとづく「ボレロ」は、そのもっともよく知られる例だろう。ラヴェルの「ボレロ」はまったくユニークな作品で、小太鼓が延々と同じリズムを刻み続けるなかで、オーケストラが次々と楽器の種類や組合せを変えながら、同じメロディをくりかえす。となれば、これはソロをどう聴かせるかという奏者たちの腕自慢でもある。名手ぞろいのN響ならではのハイレベルな演奏を堪能できそうだ。

指揮のジュセップ・ポンスは、現在バルセロナのリセウ大劇場の音楽監督やスペイン国立管弦楽団の名誉指揮者を務めている。スペイン音楽を知り尽くした名匠ならではの精彩に富んだ音楽を披露してくれることだろう。

飯尾洋一(音楽ライター)


NHK交響楽団 横須賀公演 指揮:ジュゼップ・ポンス

2019年 6月2日(日) 14:00開演 (13:30開場)

よこすか芸術劇場

S席:8,500円 A席:7,000円 B席:6,000円

※未就学児童は入場できません。 託児サービスをご利用ください。

チケット一般発売日:2019年1月12日(土)

出演:
指揮:ジュゼップ・ポンス
ヴァイオリン:南 紫音
管弦楽:NHK交響楽団

曲目:
ファリャ 歌劇「はかない人生」から間奏曲とスペイン舞曲
ラロ スペイン交響曲 ニ短調
ファリャ バレエ組曲「三角帽子」
ラヴェル ボレロ

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