横須賀で30年続く伝統芸能のよこすか能。プロデュースを務める能楽師 観世喜正氏によこすか能の魅力を伺いました。
Q よこすか能では、プロデューサーと演者の二刀流です。プロデューサーとしてプログラムを決める際に心がけていること、そして演者として、作品に取り組む際に心がけていることを教えてください。
プロデューサーとしては、よこすか芸術劇場の大きな空間を活かしつつ、蝋燭能の風情を感じていただける演目を選曲するということを、毎年心がけています。
演者としては、プロデュース、演出、主演を務めさせていただくことを、とても得難い事と感謝すると同時に、能の魅力をより多く発信できるよう、心がけています。
Q よこすか芸術劇場という能舞台とは異なる空間での上演では伝統を活かしながらも、鬼が舞台後方から登場したり、橋掛かりを2箇所設けるといった斬新な演出がされてきました。今回の鞍馬天狗ではどのような演出がなされるのでしょうか?
鞍馬天狗は舞台下手(しもて、客席から舞台向かって左側)に子どもたちが立ち並ぶシーンがあります。
そのため今回は、通常の能楽堂と同様に橋掛りは一本にしますが、鞍馬山の桜満開の雰囲気が出せるような演出を考えています。
Q 鞍馬天狗では、子役が大勢登場します。今回は、一般募集で集まった地域の子どもたちが数回の練習を経て出演します。出演する子どもたちは大変貴重な体験になると思いますが、その子どもたちへ伝えたいことや期待することなどがあれば教えてください。
能の舞台に立つということは、一般の方にとって特別なことであると思います。しかし、能の演目の二割超に子方(子役)の出演が設定されており、能という芸能は、子供達の存在なくては成立しない、とも言うことができます。従来から能楽師の子弟以外のお子様方にも一定の稽古を経て舞台に上がってもらっており、そのまま能の道に進むという事例もあります。今回の出演の経験を経て、将来能楽師を目指してくれる子が出て来てくれれば、この上ない喜びです。
Q 前回大好評だった字幕を今回も行うそうですね。なぜ取り入れようと思われたのですか?
「能が難解だ」と言われる一番の理由は、謡い(歌やセリフ)が古文であるからです。この古文・文語調がほんの少しでも理解できると、俄然、能を安心して鑑賞していただけることにつながります。よこすか能は、初めての方や観能経験の少ないお客様も多いので、文字情報による補足をすることは長年の懸案でした。蝋燭能の明かりとも共存できる字幕システムの運用が可能となったので、昨年より導入しています。鑑賞の妨げにならず、より舞台展開の理解を助けるツールとなるはずですので、ご活用ください。
Q 最後に、横須賀の皆さんにメッセージをお願いします。
蝋燭能「鞍馬天狗」は、横須賀芸術劇場の近代的な設備と、揺れる蝋燭の明かりの中、次の世代を担う地元の子どもたちの出演も得て始まる、時空を超えた牛若丸・源義経の物語です。2020東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式の演出家に選任された、話題の野村萬斎氏との共演も楽しみに、ぜひ劇場へお出かけ下さい。