音楽家はホールから生まれます
梅津時比古(横須賀芸術劇場育成事業アドバイザー)
音楽家はホールから生まれます。ウィーン・フィルハーモニーは、ウィーンのムジークフェラインスザール(楽友協会ホール)によってあの素晴らしい響きが作られました。
2000年に横須賀芸術劇場が「フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ リサイタル・シリーズ」を立ち上げたのも、演奏家を目指す人たちが、若い内にホールでリサイタルを行い、本当の演奏の場としてのホール経験を出発点にしてほしいという願いからでしょう。
一回の本番は百回の練習に勝ると言われます。多くの演奏家が「新しい音を本番で発見した」「本番で初めて自分の音楽が見えた」と本番の特別の力について語ります。若い人にとって、一夕のリサイタルの場を持つということが、どれほど大きな意味を持つことか、はかりしれません。
それだけに初めてのリサイタルの場は、魅力的な環境が必要とされるでしょう。横須賀芸術劇場の「フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ リサイタル・シリーズ」には素晴らしい「サポートメンバーズ」が組織化されています。その温かい応援は出演者を大きく力づけてきました。皆さん「温かい聴衆に包まれて幸せだった」と口をそろえています。
このシリーズが、50回記念を迎えるまでになりました。改めてこれまで舞台に立たれた方々のお名前を眺めると、このシリーズに出演後、皆さんが世界を股に掛けて大活躍されていることが分かります。これは横須賀芸術劇場で彼らのリサイタルを聴かれた聴衆の方々や、「サポートメンバーズ」の皆さんにとっても大変に嬉しいことではないでしょうか。押しも押されぬ演奏家の初めてのころの演奏を聴いて、応援して、送り出すという、貴重な、素晴らしい体験を共有されているのですから。
50回記念として開かれる三大協奏曲の夕べ(2018年1月)に、これまでシリーズに出演した中から飛びきりの3人が戻ってきてくれます。
上村文乃さんはドボルザークのチェロ協奏曲を豊かに歌いあげてくれるでしょう。鈴木愛理さんはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の美を極めてくれるはずです。そして、田村響さんによるラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の雄渾な響き!
横須賀芸術劇場はまるで横須賀の港のようです。ここから船出して世界に渡る。そしていったん帰港し、その体験を積み重ねた音楽で私たちを堪能させてくれます。そして再びの船出。私たちは喜びをもって送り出せるのではないでしょうか。