「新しい声」 は、ベルテルスマン財団が若く才能ある歌手を発掘、育成し、 彼らに国際的キャリアの道を開くことを目的として1987年から隔年で、ドイツで行われているコンクールです。前回(2015年)は、世界26都市で開催されたオーディションに、70ヶ国から1318人の歌手が参加しました。

 本選の参加者は、ドイツをはじめ世界のオペラハウスの芸術監督、エージェントや音楽メディアの前で歌を披露する機会に恵まれます。そのため、若い歌手にとっては、新しい契約を結んだり、これからの出演の依頼を受けるなど、将来の道を切り開くことができます。世界的に有名な歌手、ヴェッセリーナ・カサロヴァ(89年)、フランコ・ファジョーリ(03年)、マリーナ・レベカ(07年)やクリスティアーネ・カルク(07年)は、このコンクールからキャリアをスタートさせました。このコンクールでは入賞しなくても、世界の有名なオペラハウスやエージェントなどと契約し、後に国際的に評価されている歌手を数多く輩出しています。

世界オペラ歌唱コンクール「新しい声」の目的

  • 若い才能ある歌手を見い出し、長期にわたり指導、奨励、助言を与えるなど支援をすること
  • 新進の歌手に、専門家の前で演奏を披露する機会を提供すること
  • 異なる文化、国籍、宗教を持つ若い演奏家の対話や交流を促進すること

今までの優勝者

1987年ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)フランス
1988年イザベラ・ラブーダ(ソプラノ)ポーランド
1989年ヴェッセリーナ・カサロヴァ(メゾソプラノ)ブルガリア
1991年ソニア・ズラトコヴァ(コロラトゥーラ・ソプラノ)ブルガリア
1993年マリナ・イヴァノーヴァ(ソプラノ)ロシア
1995年グウィン・ヒューグ・ジョーンズ(テノール)イギリス
1997年エテーリ・グヴァザーヴァ(ソプラノ)ロシア
1999年ティナ・シュレンカー(ソプラノ)ドイツ
2001年ブラク・ビルギリ(バス)トルコ
2003年フランコ・ファジョーリ(カウンターテナー)アルゼンチン
2005年マリア・ヴィルジニア・サヴァスタノ(ソプラノ)アルゼンチン
2007年マリーナ・レベカ(ソプラノ)ラトヴィア
2009年クウォン・エンユ(ソプラノ)韓国
2011年オルガ・ベスメルトゥナ(ソプラノ)ウクライナ
2013年女性歌手 ニコル・カー(ソプラノ)オーストラリア
     ナディーン・シエラ(ソプラノ)アメリカ
男性歌手 イ・ミョンヒュン(テノール)韓国
2015年女性歌手 エルザ・ドライジ
決勝での演奏
(ソプラノ)フランス
男性歌手 アナトーリ・シフコ
決勝での演奏
(バス)ベラルーシ

 1997年からは、「新しい声」 の参加者を対象にコンクールの翌年にマスタークラスも行われています。 「新しい声」 コンクールに参加した若手歌手の中には、入賞するに至らなくても将来性がある歌手が多くいます。このマスタークラスは、彼らに特別な指導を提供することで、個々の成長を促し、キャリアを広げ、今日のオペラ界のハイレベルな要求に応えられるように支援する目的で開設されました。

 毎回最大15名の参加者が、一週間に渡り、グスタフ・クーン芸術監督のもと、エッダ・モーザーやフランシスコ・アライサ、グレイス・バンブリー、アン・マレーなど著名な声楽家から個人指導を受けます。また、実演、音楽的表現、楽曲解釈、舞台での表現方法に加え、自己管理、ネットワーク作りやインタビューへの対応、契約に関する法律、税金制度などの実用的なスキルについて学びます。

  マスタークラスの最後には、毎回ベルテルスマン財団のロビーでファイナル・コンサートを行います。歌手達はビジネス界や文化会の代表を含む350名の観客を前にして、より現実的な環境下で自らの才能を披露することが出来ます。2016年10月には第11回マスタークラスが、コンクールの本拠地であるドイツのギュータースローにて行われました。
マスタークラスの様子

NEUE STIMMEN(新しい声) マスターコース2016に参加して
中川恵美里 (ソプラノ NEUE STIMMEN 2015 オーディション in YOKOSUKA ドイツ本選参加者)

中川恵美里 昨年度のコンクールドイツ本選に続いて、今年も世界中の素晴らしい若手歌手たちと、同じ環境で学ぶことができ、とても光栄です。マスタークラスの1週間は、互いにレッスンを聴講したり、ステージリハーサルでの共演を通じて、自分の演奏を見つめ直し向上させるための、大変貴重な経験となりました。また、空いた時間には、よく参加者同士でお互いの国の文化や生活、将来のビジョンについて語り合ったことも、大切な思い出です。マスタークラスの中で、キャリアアップアドバイスとしてエージェントの方が講演をしてくださった際、とても心に残ったメッセージがありました。「今この席に座っているということは、声楽家としてとても栄誉あること。でも忘れないで、これから先キャリアを築く上で、大切なのは大きな劇場で歌い、名声を得ることだけではないことを。自分の私生活を充実させ、家族や友人と良い関係を築いた上で、初めて喜びを持って音楽という仕事に、生涯携わることが出来るのだと。」
 私は、Neue Stimmenのコンクールならびに今回のマスタークラスに参加したことで、今後のプロの音楽家としての姿勢以上に、自分の人生のどのような場面においても、常に真剣さと情熱を持って向き合うことで、それを達成した時、心から喜びを感じられることを学びました。このように世界と繋がる素晴らしいチャンスを、これからも多くの日本の若手音楽家が得ることが出来るよう、心から願っております。