中村恵理ソプラノ・リサイタル

世界が注目するディーヴァのリサイタル 日本歌曲から名アリアまで充実のプログラム

2017.5.19

 中村恵理は、今もっとも国際舞台で注目を集めている日本人ソプラノだ。バイエルン国立歌劇場、コヴェントガーデン歌劇場、ウィーン国立歌劇場など世界の一流歌劇場でひっぱりだこの大活躍ぶりを見せている。この4月には、かつて研修生として所属していた新国立劇場に10年ぶりに登場、《フィガロの結婚》のスザンナを歌って絶賛された。ヨーロッパでの活躍ぶりからすれば当然なのだが、10年前より明らかに安定度が増し、進歩した歌唱に驚嘆の声がしきりだった。

 「私は燃焼型」。あるインタビューでこう語っている通り、中村恵理には強烈な吸引力がある。仄暗いダイヤモンドのような輝きと日本人離れした力強さを備え、音楽の描くドラマと感情に応じて自在に飛翔する声は、舞台上での抜群の存在感ともども、聴き手を役柄のなかへ引きずり込む。その役柄への激しい共感は、かつて彼女がピンチヒッターを務めたオペラ界の大スター、アンナ・ネトレプコに共通するものだ。中村恵理には、オペラスターに求められる、けれど実はまれにしか授からない才能がある。技術が完璧なのはいうまでもない。  今回が初登場となるよこすか芸術劇場のリサイタルでは、今の中村恵理の魅力がたっぷり味わえるプログラムが組まれている。リリカルな魅力はそのままに、年と経験を経るにつれて次第に重くなってきた声に対応し、日本歌曲からオペラの名作を代表する大アリアまで、幅広い作品が網羅されている。

 前半は山田耕作をはじめとする日本歌曲の名曲と、ベルカントを代表する作曲家、ベッリーニの歌曲。ベッリーニは、ネトレプコの代役として出演し、彼女がブレイクするきっかけになった《カプレーティとモンテッキ》の作曲家で、息の長い美しい旋律美でワーグナーやショパンら多くの作曲家を魅了した。今回歌われる3曲は「珠玉」という表現がぴったりの曲で、中村の声の魅力がたっぷり味わえることだろう。

 前半の最後は、モーツアルト・オペラから対照的な2曲を。《フィガロの結婚》の「さあ、お膝をついて」は、小間使いのスザンナが小姓のケルビーノに女装させるチャーミングな1曲。《コジ・ファン・トウッテ》の「岩のように」は、ヒロインのひとりフィオルディリージが恋人への貞操を誓うアリアで、超絶技巧を駆使したアリアとして有名だ。「時がたつにつれてモーツアルトの難しさがわかってきた」という中村の円熟ぶりが披露されるに違いない。

 後半は、フランスとイタリアの人気オペラから名アリアのオンパレード。グノーの《ロミオとジュリエット》は、シェイクスピアの有名な戯曲を下敷きにした愛の悲劇。「私は夢に生きたい」では、文字通り夢見る少女の心が装飾をちりばめながら歌われる。ビゼーの《カルメン》からは、ミカエラの「何も恐れるものはない」。悪女カルメンに魅入られた恋人を訪ねる決意を歌う、凛としたアリアである。

 イタリア・オペラの代名詞、ヴェルディとプッチーニのオペラからは、名曲中の名曲を。 

 ヴェルディ《椿姫》の「さようなら、過ぎ去った日よ」は、死を前にしたヒロインが、過ぎた恋と道を誤った人生への後悔を歌う1曲。声も含めて演技力が問われるアリアで、中村の燃焼ぶりが楽しみだ。プッチーニ《マノン・レスコー》の「あの柔らかなレースの中で」は、恋人を裏切って富裕なパトロンに囲われているヒロインが、富はあっても心は満たされない虚しさを歌う。《蝶々夫人》の「ある晴れた日に」は、ご存知日本を舞台にした名作を代表する名アリア。海の向こうへ去った夫が帰る日を夢見る蝶々さんの絶唱は、充実したリサイタルの幕切れを飾るのにふさわしい。