横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズ52
徳永二男 with 伊藤 恵

音楽ライター 柴田克彦が語る
徳永二男 with 伊藤恵の魅力

2017.10.18

 年輪がもたらす味 ─ それが徳永二男の大きな魅力だろう。楽壇生活50余年の長さだけではない。彼は19歳で東響のコンサートマスターに就任。その後N響の顔として、多くの偉大なマエストロの音楽を吸収した。昨年インタビューした際に、印象的な音楽家として挙げていたのが、大指揮者マタチッチ、サヴァリッシュとヴァイオリンの大家シェリング。トップ楽団のリーダーの立場でこうした巨匠たちと交わる得難い経験が、ソロや室内楽活動の佳き血肉となっているのは間違いない。さらに教授活動も47年に達する。「教えることは自分の演奏を見直すことに繋がる」と音楽家は誰もが言う。この実績もまた計り知れない栄養だ。加えて、合奏団の主宰者、音楽祭やホールの音楽監督、コンクールの審査員など、別の角度から音楽に関わってきたことが多彩な幅を加える。かように彼の経験値たるや広大かつ膨大。そして全てを第一線の場で成してきた点が素晴らしい。彼のリサイタルでは、その実り多き経験から滲み出る“熟成の味”を聴くことができる。

 今回、出身地・横須賀で披露されるプログラムは、ベートーヴェンとブラームスの王道ソナタ3曲。しかも、ベートーヴェンの第9番「クロイツェル」は、同分野の最高峰たる華麗な力作、ブラームスの第1番「雨の歌」は、メロウでロマンティックな名品、ベートーヴェンの第8番は、軽妙かつ叙情的な佳品と、それぞれ異なるテイストを有している。徳永の特長の1つは、楽曲の本質をナチュラルに伝えてくれること。それゆえこのプログラムは、ヴァイオリン音楽の多様な精髄を知るにも相応しい。

 ピアノがやはり経験豊富な実力派ソリスト、伊藤恵であるのも嬉しい。本来“ヴァイオリンとピアノのための”と銘打たれたこれらのソナタでは、ピアノがきわめて重要。その点彼女は、ドイツ音楽が十八番の上、徳永の盟友的存在であり、両作曲家のソナタ全曲録音でも共演している。しからば当然、通常のデュオ以上に息の合ったコンビネーションと、両者の経験値の相乗効果が生み出す奥深い音楽表現が期待できる。

 昨年徳永は、「信条は“日々工夫”。三浦文彰君など若手のトップにいる教え子たちの背中を見ながら、ついていけるよう努力し、ヴァイオリニストとしてステージに立ち続けたい」と語っていた。彼は今なお味の幅を広げ、高みを目指している。無数の年輪を刻みつつ、滋養を得てさらに伸びる幹のような、堅牢にして生気溢れる音楽を堪能したい。